定点撮影記録集「3.11オモイデアーカイブ」発刊

めざすのは、句点「。」ではない 読点「、」のアーカイブ=完成しないアーカイブ

震災翌年の2012年から定点撮影をはじめ、その記録を2013年「3.11キヲクのキロク、そしてイマ。」にまとめ発刊しました。さらにその翌2014年、震災以前に撮影された沿岸部の町々をもとに定点撮影された記録集「オモイデピース」を製作。津波被災により失った「かつての風景」を目の当たりにし、当時、私たちが定点写真を撮る理由として挙げていたのが、「復旧・復興の様子を将来に残すため」、 「もともとのまちの営みをイメージしてもらうため」でした。

同じ場所に立ち、シャッターを押して残された記録写真は、被写体の変化を伝える貴重な資料になります。私自身、定点撮影活動で注視したのは、変化したまち、変化しないまちの“姿”でした。しかし、活動を続けるうちに、記録された写真は定点撮影の活動の中で生み出される副産物のひとつであって、何よりも重要なのは、現地で“変化を見続けるという関わり方”なのではないかと思うようになりました。

写真の見方や意味、人の肌感覚も日々変化していきます。変化を見つけるのは、風景のみではなく、市民生活の中から見いだすことができるかもしれません。作家の小松左京氏が「大震災’95」(河出書房)で、市民がセンサーを働かせて記憶を記す重要性を説いたように、アーカイブ化された素材を上手く活用するためには、日常生活の中でアーカイブ資料を使い、使う人がアーカイブ資料を作る。そして、それらが継続的に循環するという手法があっても良いわけです。「収集、保存、編集、公開」というサイクルでアーカイブ事業全般にひと区切りを付けるのではなく、さらに「利活用」を加えることで「収集、保存、編集、公開、利活用」を何度も何度も繰り返すような―。

それは、ある時点で“完結するアーカイブ”ではなく、“終点を迎えないアーカイブ”とも言い表すことができるのかもしれません。見る人や、作る人、使う人、語る人、聞く人など、それぞれの役割を担った人たちが次々と関わりながら、繋ぎ続けるように。生活者的視点を保つ市民がアーキビストになり、ユーザーとなる。市民自らがアーカイブをつくり出し活用するという新しい形が、東日本大震災をきっかけに生まれたように感じています。

さて、本誌「3.11オモイデアーカイブ」の大きな特徴は、震災後、定点で撮影された写真のみではなく、震災前のまちの様子と現在を比較する写真も含めて、「震災アーカイブ」と「地域アーカイブ」が一冊の記録誌としてまとめられていることです。

自分たちが住むまちの歴史や地名、地質などは震災によって大きく関心が高まりました。そして、“かつての風景”は単に“過去の風景”ではなく、“復興後の未来”を思い描くための素地になっていきます。

今後、震災非体験者が増えていくことで、さらに震災の記憶の風化は進んでいくでしょう。3.11から十数年後、震災を経験していない若者たちが何を語り伝えるのか。先人たちが私たちのために様々な資料を残してくれていたように、定点写真が過去を探り未来を語るための一助になることを願い、本誌を制作しました。

2011年3月11日を境に、新たにまちの歴史が始まったのではなく、歴史の連続性を強く意識するようになったのは、震災のおかげと言っても良いのかもしれません。

句点「。」ではなく、読点「、」のアーカイブ。定点撮影記録は、まちの歴史を点と点で結び一本化する作業であり、いつでも誰もが参加することが可能な“終点を迎えないアーカイブ”手法なのです。

本誌は、「3.11定点撮影プロジェクト」で活動をともにするメンバー、工藤 寛之さん、天江 真さん、福地 裕明さん、大林 紅子さん、佐藤 晃一さんが撮影した写真159枚、60組を中心に構成しています。

メンバー同士の座談会でファシリテーションを務めてくださった中村佳史さん。まちと人をむすぶというテーマで表紙イラストを描いてくださった佐竹 真紀子さん。実践者ならではの平明な言葉で市井が取り組むべきアーカイブについてご寄稿いただいた、高森 順子さん、水島 久光さん、松本 篤さん。震災前の仙台市沿岸部の風景を写す貴重な資料をご提供いただいた、高橋親夫さん、貴田国松さんはじめメンバーのみなさま。そして、2017年度の3.11オモイデアーカイブの活動に、多大なるご支援を賜りました「READY FOR」ご支援者175名のみなさま。多くのみなさまのおかげで本誌「3.11オモイデアーカイブ」を制作することができました。心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

2018年3月

3.11オモイデアーカイブ 代表 佐藤正実


2018年3月11日発刊「3.11オモイデアーカイブ」あとがき より

本誌「3.11オモイデアーカイブ」は、クラウドファンディング(https://readyfor.jp/projects/311omoide)でご支援いただいた方への返礼品として制作しました。なお、仙台市内7図書館(市民図書館、広瀬図書館、宮城野図書館、榴岡図書館、若林図書館、太白図書館、泉図書館)、宮城県図書館、国立国会図書館で閲覧可能です。

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